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ミミは里のなかではしっかりした穏やかな性格で通っているが,それほど強い心を持っているわけではないし,「ミミなら大丈夫」という先入観を持たれていることに不満も持っている。できて当然,ではなく,頼まれて何かを作ったら,心から感謝してもらいたいと思っている。誰だってそうだろう。シッショの文章がヘタであることをからかいながら書き方を指導することもしないボッチや,好き勝手に資源を持ち出しておきながら何ら収穫もなく帰ってくるマッパにも苛立っている。それらはかつてミミ自身へいわれのない非難をぶつけてきた人々を思い出させる。

本来はもっと自由に感情を露にしたいが,それで今までの関係が壊れるのは良くないことだ。また里に波風をたてるのも誰の得にもならない。だからふだんは自分の内で耐えているが,それが身体の不調なときに重なって限界を超えると寝込んでしまう。そのことを知り,話を聞いてくれるのはいまのところシンキだけである。

アルジがミミに文字入力の装置と義手について催促してこないのは幸いである,とともに後ろめたさも感じている。アルジの腕は肘から先がないので,ふつうに義手を作っても長い棒のような役割にしかならない。曲げられないからだ。それでも身体のバランスを取りやすくなるので十分なのだが,素晴らしい義手を作ると約束してしまった以上,構想ばかりがふくらんで実現が伴わず,自分を苦しめることになってしまっている。ただ,今後アルジはボッチ団の一員として再び調査に参加することになる。それまでに何らかのものを完成させなければならない。

当のアルジは,その頃シッショとともに,オヤブンの許可を得て武器庫で自分に合う得物を物色していた。以前シッショがザエルを倒すために武器を持ち出した際は,数日の謹慎をするはずだった。あまりに重い処分ではシッショが苛められているとクビワが誤解して里を滅ぼしかねないためだろう。ところがマッパに呼び出され,謹慎期間まるまるマッパの手伝いをすることになったのだった。まあそんなこともあって,本来ならシッショは武器庫に近づけないはずなのだが,ボッチ団で活動するアルジのために,今回は特別に許されている。

目星をつけて探しはじめたこともあり,目的の武器はすぐに見つかった。ジャラジャラという音とともにそれを引き出し,シッショがアルジに見せると,アルジはうなずく。

「どうやって持ちましょうか」アルジが問う。「うーん,あ,そうだ」シッショはそう言って防具の並ぶ場所を探しはじめ,やがて革の帯を取り出した。アルファベットのHの字のような形で,両肩を通す紐と,それを支えるベルトがついている。ベルトの中央には金属製の輪があった。「これは槍を背負いやすくするために作ったものなんだけど,これを前後逆にしてみるのはどう?」「いいですね」

アルジはシッショの指導の下,早速その武器で練習を始めた。重要なのは身体のひねりだ。シッショはクビワほど身体のコントロールは巧みではないが,その動きを言語で伝えることができる。寝静まった里に迷惑をかけないよう,里の外でトレーニングが行われたが,武器をふるうたびに地面に穴が穿たれ,その大きさはみるみる拡がっていった。その音に気付いたキセイは,小屋の屋根に登ると,そこから二人の様子を興味深く眺めていた。

果たしてこの二人が何をしているのか具体的には全くわからない。だが何をねらいとしているのかは明確である。湿地のザエルを討伐しようとしているのだ。



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