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「雪灯籠?アルジを襲ったあいつを探しに行くの?」シッショが驚いたように言った。

アルジを襲ったあいつは死んだ。正確には別個体である。だがそれを指摘するほど愚かではない。

広場で日課のトレーニングにはげむシッショとクビワに声をかけ,アルジは事情を説明した。目的は雪灯籠探索の手伝いだった。「僕はいいけど,クビワはだめだ」「なぜです?」「クビワは好奇心が旺盛だから,光るものを見つけたら絶対についていく。アルジの言うように雪灯籠の動きが速ければ,クビワは避ける前にやられる」

「シッショはアルジとあそぶのか?クビワもいくぞ」「クビワ,遊びに行くんじゃないんだ,危険なんだよ」「キケンならクビワがたおす!」「いや,そういうことじゃなくて…」

「それじゃあ,こういうのはどうでしょう」アルジは二人に少し待つよう言うと,倉庫に向かい,間もなく腰に縄を巻いて戻ってきた。「私がクビワさんに夜の散歩に連れていってもらうんです」

「サンポ?アルジ,ひとりでさんぽできないのか?」「はい,臆病なので」「よわっちいな!わかった!つれてってやる!」「怖いので一人にしないでくださいね」「まかせろ!」

ふむ,とシッショは軽く息をついた。アルジが縄を巻き,クビワに散歩に連れていってもらう。あくまで自分のほうをペットとしてふるまうアルジの立場に,クビワを一人の人間として尊重する姿勢が伺えた。

「わかった。それじゃあ,僕はボッチと組むから。アルジ,クビワをよろしくね」「よろしくするのはアルジのほうだぞ」「はい,お二人ともよろしくお願いします」

ボンッ

里に爆音が響いた。広場にいたアルジ達だけでなく,本部にいたボッチやオヤブンまでもが何事かと外に出てくる。

「だから一気に入れちゃいけないってあれほど言ったじゃないですか!」「うるせーな,冷やせれば何でもいいだろ」「里が木っ端微塵になっちゃうでしょ!」「そのときはそのときだ」「もう!」

音の主は加工場だった。熱した金属を冷やす際,大量の素材を水に放り込んだため爆発が起きたのだ。だが至近距離で水蒸気の爆風を受けたにも関わらず,超人のマッパには火傷ひとつなかった。もはやマッパを調査対象にすべきである。

「だいたいこんな細かい作業は性にあわん」「細かいって,ダモスでも持ち上げられないような素材を運ぶことのどこが細かいんですか」「ちまちましてるって言ってんだよ,もっと捕獲装置っつったら投網をぶんなげて引き上げるようなもんをなぁ」「あなたまで魚釣りみたいなこと言ってどうするんですか」「魚釣りじゃなくて漁だよ,漁。言葉の使いかたわかってる?」「漁の対象はモンスターじゃなくて魚介類です。あなたこそ言葉の使い方がわかってないんじゃないですか」「貝だったら海にいようが山にいようが同じ漁だろうが!」「全然違いますよ!」「どう違うってんだ!」

すさまじい言葉の応酬だった。それよりも驚くべきは,互いに言い争いながら全く作業の手を止めないことである。その様子に,調査隊のプロ意識をアルジはまざまざと思い知らされたのだった。



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