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「でかいトリ?でかいトリってなんだ?」

ミミとケライは夕食をとっていたクビワとシッショをつかまえ,クビワに餌付けを頼めるかたずねた。当然その後どういう展開になるか予想している。

「だめだ」強い口調で断ったのはもちろんシッショだ。狡舞鳥がどれほど危険かわからないのに,そんなこと許せるものか。

だがケライがシッショの隣に座り,アルジから託された内容が書かれた資料を見せ,説明を始めた。そこにはミミの添削がいくつか入っている。危険なモンスターではないと伝えるためだった。やがて交渉のなかで,クビワに直接話を聞くことにもなろう。

シッショは当初,素直に話を聞いていた。だがあるとき,文書に目をこらし,何かに気付いたのか,少し怪訝な表情で資料とケライを見比べる。かたやクビワは,ケライが自分に大食い勝負を仕掛けてきたのかと身構えていた。

「クビワさん。今日はそんなつもりで来たわけじゃないですよ」ミミが苦笑いし,ミミとケライ,二人分の食事を持ってきた。本来食事中にものを読むのは感心できないのだが,これを逸するとクビワが起きるまで半日以上待つことになる。クビワはホッとしたような,少し残念なような顔で,再び手と口を動かしはじめた。

「シッショさん,読めますか」ミミが心配そうに聞く。ケライがそれほど汚い字だとは思わなかったが。「ん,いや,そういうわけじゃないよ。ただどうして紋章が入ってないのかと思って」「紋章?」

シッショは胸ポケットから折れた紙を取り出した。開くと,びっしりと何かが書かれている。「うーん,ちょっとこれは例が悪かったかな。まあいいか。紙に紋章の透かしが入ってるのが見える?」ミミがシッショの背中越しに眺める。その拍子にミミの柔らかい身体の一部が当たってしまい,シッショが咄嗟に謝ったのだが,ともかく,紙の中央には竜人族の証を示す模様が透けて見えた。「あ,あります。これですね」そう言ってミミが模様の外周をなぞった。

「調査隊が使う紙には必ずこの紋章が入っているんだ。僕はここに来る前は西方の部隊にいたからよく知ってる。でもケライの紙にはそれが入ってない。ねえケライ。ケライはこの紙を調査隊に来る前から持ってた?」

ケライは首を横に振った。シッショがまずいな,という様子を声と顔で示した。「あの,何か問題でも」ミミが不安そうに聞く。

シッショは食器を置くと,真剣な目でケライを見て言った。「ケライ,これをどこで見つけた?」ケライは目を左右に動かし,紙を裏返したりしながら記憶をたどる。「私の部屋です」「ケライの部屋にもともと置いてあったの?」首を横に振る。「不要な資料を裏紙にして書きました」「その資料はどこに置いてあった紙を使ったの?」「わかりません」「思い当たる場所でもいい」

ミミはシッショがケライを尋問しているようで怖かった。「シッショさん,もう少し優しく」だがシッショはうろたえない。「これはとても重要なんだ。頼む,ケライ。思い出して」

一番可能性が高いのは書庫だ。だが,医務室,加工場,武器庫,各隊員の部屋,可能性は低いがオヤブンの部屋,候補はいくらでもある。

「わかりません」ケライは思い出せず,シッショは「うーん…」とうなった。ミミはおろおろするばかりだ。「あの,シッショさん,何が問題なんですか,教えてください」

「ケライ,僕は密偵の疑いがある君を拘束しなきゃいけない」

「!!」ミミが驚きのあまり開いた口元を抑える。何も知らないクビワは「ミミとケライはたべないのか?」と他人事だ。

「私は密偵なんですか。誰の」状況が把握できないケライは素っ頓狂な問いを発する。「わからない。でも,調査隊が使う紙は必ず透かしが入ってるんだ。だからケライが持っている紙は外部から持ち込まれたことになる。外部の人間と関わった可能性のある者を僕は放っておくことはできない。ごめん,ケライ。わかってくれ」

「これは何かの間違いでは。ケライさんにかぎってそんな」「里の調査はおそらく僕が担当することになるだろうし,何かの拍子にまぎれこんだ可能性もないとはいえない。おそらく証拠も出てこないだろう。でもやらなければならない。クビワだけじゃない。みんなの安全を守るために」

そう言ってシッショはクビワに食事が済み次第寝るように伝えると,ケライを連れてラウンジを出て行った。その際,拘束には素直に応じることと,口ごたえを含め決して抵抗しないことを約束させた。



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