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本章ではストーリーに進展はない。時間を進めたい読者は飛ばしてほしい。
雪山から南へ下る道は暗い。そびえ立つ山々が光を遮っているためである。ただし,そこを通ろうとするものは,何であれ流星の目からは逃れられない。
白い布を引きずり,雪原を歩く者がある。同色であれば逃げおおせると思ったか。紫の流星は,その寂しげな背中をめがけ,急降下する。
それが顔を上げる。目が合った。
自分と同じ目をしていた。
汗だくで目が覚める。身体の内側から太鼓を鳴らされているかのようだ。仕切りを横切って,ずるずると這いつくばりながら天幕の外に身体を押し出す。
森から吹いてくる夜風は冷たい。といっても身体を突き刺すほどではなく,血の煮えたぎる身体にとっては心地よささえ感じる。うつりゆく雲の隙間に輝く星をながめながら,あの言葉がいつ自分にかけられるのか,そのときを待っていた。
黙っていってくれないか。
そうオヤブンが言うのを。
ミミはアルジの様子を感じとり,新たな義足を作ろうとしない。作ればいってしまうからだ。何かと理由をつけて逃げる。歩行器は里に置いてきてしまったので,アルジは不便な思いをしている。ただ,試作品のなかで,それなりに足に合うものを予備として持ってきている。ミミに知られれば破壊されてしまうので,隠している。
ミミのことだから,すぐに膜を使えるようにするだろう。あとは内緒で持ち出せばよい。夢に見たように運べば,紫針竜を倒せるだろう。
里は救われる。邪魔者もいなくなる。自分さえいなくなれば。
見ていた空がぼやけていった。
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